このシリーズについて

本シリーズ「AWS移行のサービス選定」は、オンプレミス環境を AWS に移行する際に 「どのサービスを選ぶべきか」 の意思決定を設計観点で解説する。 各レイヤー(コンピュート・DB・ストレージ・ネットワーク・非同期・監視)ごとに判断フローを整理し、「なぜそのサービスか」を理解できる構成にしている。

PART 01
移行戦略(6R)← 本記事
PART 02
コンピュートの選び方
PART 03
データベースの選び方
PART 04
ストレージの選び方
PART 05
ネットワークの選び方
PART 06
非同期処理・ジョブの選び方
PART 07
監視・ログの選び方
PART 08
判断フロー まとめ早見表

なぜ戦略を先に決めるのか

移行プロジェクトでよくある失敗パターンが、「とりあえず EC2 に移す」 という判断だ。 確かに EC2 は最も移行コストが低いが、それがゴールになってしまうと「クラウドに移したのにコストが下がらない」「運用負荷が変わらない」という結果になりやすい。

逆に最初からすべてをサーバーレス・コンテナ化しようとすると、移行コストが膨大になり、スケジュールが崩壊する。

戦略(どう移行するか)を先に決めることで、後続のサービス選定の方向性が一気に定まる。 移行戦略の代表的な分類が「6R」だ。

移行戦略の分類:6R とは

AWS が提唱する 6R は、ワークロードをどのように移行・処理するかを6つのパターンに分類したものだ。

戦略別名概要難易度メリット
Rehost リフト&シフト アプリを変更せず EC2 等に移す 移行速度が最速。コスト削減はリソース最適化フェーズで後追い
Replatform リフト・ティンカー・シフト 最低限の改修でマネージドサービスに乗り換え(DBをRDSに移すなど) コード改修を最小化しつつ運用負荷を削減
Refactor Re-architect クラウドネイティブなアーキテクチャに作り直す(コンテナ・サーバーレス等) スケーラビリティ・コスト効率を最大化。中長期で最もメリット大
Repurchase Drop and Shop SaaS へ切り替える(CRM を Salesforce に替える等) 自前運用から脱却。ライセンスコスト見直しも同時に
Retire 使われていないシステムを廃止する コスト削減。移行対象を絞り込む
Retain Re-visit 今は移行しない(規制・依存関係等の理由で) ハイブリッド構成でリスク分散。将来のフェーズへ先送り

判断フロー

以下のフローに沿って、ワークロードごとに戦略を選択する。

Q1. そのワークロード、廃止できるか?
 ├─ Yes → Retire(廃止)
 └─ No → Q2 へ

Q2. 今すぐ移行しなければならないか?(規制・依存で動かせない)
 ├─ 動かせない → Retain(保留)
 └─ 移行する → Q3 へ

Q3. SaaS で代替できるか?
 ├─ Yes → Repurchase(SaaS切り替え)
 └─ No → Q4 へ

Q4. アプリを変更できるか?(コスト・スケジュール・権限)
 ├─ 変えたくない(短期移行優先)→ Rehost(EC2ベース)
 ├─ 少しなら変えられる     → Replatform(RDS・ECSなど)
 └─ 根本から変えられる     → Refactor(コンテナ/サーバーレス)

実務のコツ:ワークロード単位で判断する

プロジェクト全体で一つの戦略を選ぶのではなく、ワークロード(サービス・機能)ごとに戦略を決めるのが現実的だ。例えば「フロントエンドは Refactor(CloudFront + S3)、バッチは Replatform(RDS移行)、レガシー基幹は Rehost(EC2)」という混在構成は珍しくない。

Rehost(リフト&シフト)

最も移行コストが低い戦略。既存のアプリをそのまま EC2 に移す。

向いているケース:

  • 移行期限が迫っている(データセンター契約終了など)
  • レガシーアプリでコードを触れない
  • まずオンプレの固定費を解消したい

Rehost 後にやること:
移行後に リソース最適化(適切なインスタンスタイプ選定、Reserved Instance 購入)や 部分的な Replatform(RDS 移行など)を段階的に進めることで、コスト削減効果を積み上げていく。Rehost はゴールではなく、移行の入口と捉えるのが正しい。

⚠️ Rehost の落とし穴:オンプレ慣習の持ち込み

オンプレでは「万が一に備えてリソースを多めに確保」が当たり前だったが、AWS では過剰なスペックはそのままコストになる。Rehost 後は AWS Compute OptimizerCost Explorer で定期的に見直しが必要だ。

Replatform(最低限の最適化)

アプリのコアロジックを変えずに、一部のコンポーネントをマネージドサービスに置き換える戦略。

代表的なパターン:

  • オンプレ MySQL → Amazon RDS(アプリのDB接続先を変更するだけ)
  • 物理サーバー上のアプリ → EC2 から ECS/Fargate へ(コンテナ化)
  • オンプレ Redis → ElastiCache(接続設定の変更のみ)

コードの大幅改修なしに OS パッチ・DB バージョン管理・バックアップなどの運用負荷を AWS に委ねられる点がメリットだ。

Refactor(クラウドネイティブ化)

アーキテクチャを根本から再設計する。最もコストと期間がかかるが、長期的なコスト効率・スケーラビリティ・開発速度で最大のメリットを得られる。

代表的なパターン:

  • モノリシックアプリ → マイクロサービス(ECS/EKS)
  • バッチ処理 → Lambda + EventBridge(サーバーレス)
  • オンプレ AP サーバー → コンテナ(Fargate)+ ALB

💡 Refactor を選ぶ判断基準

「スケールが読めない」「需要の波が激しい」「開発チームの CI/CD を整備したい」といったケースで Refactor の投資対効果が高くなる。一方、安定した需要・変更頻度が低いシステムは Replatform で十分なことも多い。

その他の R(Retire / Retain / Repurchase)

移行対象のシステム棚卸しで意外と見落とされるのが Retire(廃止) だ。 多くの組織では「使われているかもしれない」という懸念から廃止に踏み切れないシステムが多数ある。 利用状況を実際に確認し、廃止できるものを先に整理するだけで移行スコープを大幅に絞れる。

Retain(保留) は「今は移行しない」という明示的な判断だ。 規制対応中・依存システムの改修待ち・コスト的に移行メリットが薄いシステムなどが対象になる。 放置と区別するためにも、「いつ再判断するか」を記録しておくことが重要だ。

実務での使い方

移行プロジェクトのキックオフ段階で、以下のようなワークロード棚卸しシートを作ることを勧める。

システム名用途利用状況変更可否戦略備考
受注管理(Web)業務中核高頻度可(中規模改修)ReplatformDB を RDS へ
夜間バッチ日次集計毎日可(大幅改修 OK)RefactorLambda + Step Functions
旧社内ポータルお知らせ閲覧ほぼゼロRetire新ポータルへ統合済み
メインフレーム連携会計系高頻度不可(規制対応中)Retain2027年度再評価

次の章では…

PART 02 ではコンピュートレイヤーの判断フローを解説する。EC2・ECS/Fargate・Lambda のどれを選ぶかを、ワークロードの性質から判断する方法を整理する。

→ PART 02 — コンピュートの選び方へ