ベンチマーク比較の注意点
クラウドプロバイダーのパフォーマンスを比較するベンチマークは数多く公開されているが、 そのままの数値を鵜呑みにするのは危険だ。ベンチマーク結果はテスト環境・インスタンスタイプ・ リージョン・時間帯によって大きく変動する。
本記事で重要なのは「絶対的な数値」ではなく、各プラットフォームの性能特性の傾向とトレードオフを 理解することだ。自社ワークロードに合ったテストを実施して比較することが、 最終的な選定では不可欠である。
💡 自社ワークロードでの検証を推奨
各クラウドプロバイダーは無料枠や試用クレジットを提供しています。 本番移行前に自社の代表的なワークロードでテストを実施し、 実際のレイテンシ・スループット・コストを計測することを強く推奨します。
コンピュート性能比較
コンピュート性能はインスタンスタイプ・世代・プロセッサアーキテクチャによって大きく異なる。 2024〜2026年現在、各社の主要な compute 系インスタンスの特徴を整理する。
| 観点 | オンプレ | AWS | OCI | Azure |
|---|---|---|---|---|
| プロセッサ選択肢 | 購入時に固定 | Intel/AMD/Graviton(ARM) | Intel/AMD/Ampere(ARM) | Intel/AMD/Arm |
| ARM プロセッサ | 別途調達が必要 | Graviton3/4(高コスパ) | Ampere A1(非常に安価) | Arm-based(一部) |
| メモリ最大 | 無制限(HW次第) | 24 TiB(u-24tb1) | 2.09 TiB(BM.Standard3.64) | 11.5 TiB(M-series) |
| vCPU最大 | 無制限(HW次第) | 448 vCPU(c7gn.48xlarge) | 160 OCPU(BM.Standard3.64) | 192 vCPU(H-series) |
| ベアメタル | 常にベアメタル | 対応(i3en.metal等) | 充実(BM.シリーズ多数) | 対応(M-series等) |
| GPU | 別途調達 | p4d, p5(NVIDIA A100/H100) | GPU対応(BM.GPU4.8) | NDv5(H100 SXM) |
| 専有ホスト | 常に専有 | Dedicated Hosts | Dedicated VM Host | Dedicated Hosts |
注目すべきは OCI の Ampere A1 インスタンスの割安感だ。 ARM ベースで電力効率が高く、Always Free Tier で 4 OCPU・24GB メモリが永続無料で使える。 汎用ワークロードであれば AWS Graviton3 と Ampere A1 を比較検討する価値がある。 一方、ベースラインとして専用ハードウェアを使えるオンプレミスは「ノイジーネイバー」問題がなく、 安定した専有性能を発揮できる点で依然として優位性を持つ。
ストレージ I/O 比較
データベースや高 I/O 要件のワークロードでは、ストレージの IOPS とスループットが システム全体のボトルネックになりやすい。各プラットフォームの主要ストレージサービスを比較する。
| ストレージ種別 | AWS | OCI | Azure | オンプレ相当 |
|---|---|---|---|---|
| 高性能ブロック(最大IOPS) | io2 Block Express: 256,000 IOPS | Ultra High Performance: 300,000+ IOPS | Ultra Disk: 160,000 IOPS | All-Flash SAN: 500,000+ IOPS |
| 汎用ブロック | gp3: 16,000 IOPS | High Performance: 50,000 IOPS | Premium SSD v2: 80,000 IOPS | SSD NAS: 50,000+ IOPS |
| スループット最大 | io2: 4,000 MB/s | Ultra: 5,000 MB/s | Ultra Disk: 4,000 MB/s | NVMe SSD: 10,000+ MB/s |
| オブジェクトストレージ | S3(業界標準) | Object Storage(高い互換性) | Blob Storage | MinIO等で代替 |
| 共有ファイルストレージ | EFS / FSx(多選択肢) | File Storage(NFSv3対応) | Azure Files(NFSv4.1対応) | NAS(NFS/SMB) |
✅ OCI のストレージは価格性能比が優秀
OCI の Block Volume は同等スペックの AWS EBS と比べて料金が安く、 Ultra High Performance では IOPS あたりの単価も競争力があります。 特に I/O 集約型の Oracle Database ワークロードでは OCI のストレージと Exadata Cloud Service の組み合わせが他社を圧倒する場合があります。
ネットワーク帯域・レイテンシ比較
クラウドにおけるネットワーク性能は「インスタンス間の帯域」「インターネット出口」 「専用線接続」の三つの観点で評価する必要がある。
| ネットワーク観点 | オンプレ | AWS | OCI | Azure |
|---|---|---|---|---|
| インスタンス間帯域(最大) | 10/25/100Gbps(HW次第) | 最大400 Gbps(p4d) | 最大100 Gbps(BM系) | 最大200 Gbps(HPC系) |
| 同AZ内レイテンシ | 0.1ms 未満(直結) | 0.1〜0.3ms | 0.1〜0.2ms | 0.1〜0.3ms |
| クロスAZレイテンシ | リング構成で数ms | 1〜2ms | 1〜3ms | 1〜2ms |
| 専用線接続 | 直接接続 | AWS Direct Connect | FastConnect | ExpressRoute |
| VPN 接続 | IPsec/SSL-VPN | Site-to-Site VPN | Site-to-Site VPN | VPN Gateway |
| CDN | 別途導入 | CloudFront(世界最多PoP) | OCI CDN | Azure CDN / Front Door |
レイテンシは特に金融系の高頻度取引や、リアルタイム処理が求められるシステムで重要になる。 オンプレミスの同一ラック内接続は 0.1ms 未満という最速の応答速度を実現できるが、 クラウドの同一 AZ 内も 0.1〜0.3ms 程度まで改善されており、 大半のエンタープライズワークロードでは実用上の差はほぼない。
DB 性能 — Oracle Exadata の特殊性
パフォーマンス比較において OCI が特別な地位を占めるのが Oracle Database の性能だ。 OCI は Exadata Cloud Service を提供しており、これはオンプレの Exadata と同等の ハードウェアをクラウドで提供するものだ。
Exadata は Smart Scan(ストレージ層での SQL 処理)・RDMA(超低レイテンシ通信)・ Hybrid Columnar Compression など Oracle 専用の技術を活用し、 汎用サーバーでは達成できない I/O スループットとクエリ性能を実現する。 Oracle Database の大規模処理では AWS Aurora や Azure SQL Database では代替できない 特殊な優位性がある。
⚠️ Exadata は Oracle DB 専用の比較軸
Oracle Database 以外を使用する場合、Exadata の優位性は関係ありません。 PostgreSQL・MySQL・SQL Server ベースのシステムでは、AWS RDS・Azure Database等が より良い選択肢となる場合があります。
バースト性能とスロットリング
クラウド固有の性能問題として「バースト性能」と「スロットリング」がある。 汎用インスタンス(AWS T系、OCI VM.Standard等)は平常時より高い「バースト性能」を一時的に発揮できるが、 継続して高負荷をかけると「クレジット」を消費し、ベースライン性能まで低下する。
本番環境でピーク負荷が長時間継続するシステムでは、バーストを前提にしたインスタンスを避け、 計算資源比例のインスタンス(AWS C/M系、OCI VM.Standard.E4等)を選ぶことが重要だ。 オンプレミスではこうしたスロットリングは存在しないため、安定した性能保証が必要な ミッションクリティカルシステムではオンプレの優位性が残る。
パフォーマンス軸のまとめ
| ワークロード | おすすめ | 理由 |
|---|---|---|
| Oracle DB 大規模処理 | OCI(Exadata) | 専用ハードウェア・Smart Scan・RDMA |
| 汎用Webアプリ・API | AWS / Azure / OCI いずれも可 | 差は小さい。コストと運用性で選ぶ |
| AI/ML(GPU) | AWS(NVIDIA H100 最先端) | GPU ラインナップと周辺サービスが最充実 |
| HPC・科学計算 | AWS / Azure(InfiniBand対応) | 高帯域インターコネクトが必要 |
| 安定した専有性能 | オンプレ | ノイジーネイバー問題なし・ベアメタル専有 |
| コスパ重視・ARM | OCI(Ampere A1) | Always Free含め最安水準 |
✅ 次の章では…
PART 04 では セキュリティ・コンプライアンス を比較します。 データ主権・ゼロトラスト対応・ISMS/SOC2/金融系認定の取得状況を各プラットフォームで整理します。